淳心学院の教育改革

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2014/08
漱石雑感

 現在朝日新聞で、夏目漱石の『こころ』が朝日新聞で連載されてからちょうど100年ということで、復刻の連載がおこなわれています。100年前とはちょうど先月書いた第一次世界大戦が勃発した年で大正初期にあたります。私も高校の国語の授業で『こころ』はずいぶん読まされましたが、皆さんの中にもそういう方がいらっしゃるかもしれません。私は今回これをきっかけにして『三四郎』以降の作品をいくつか読み直してみました。『三四郎』以降の小説、具体的には『それから』『門』『彼岸過迄』『行人』『こころ』『道草』『明暗』はすべて漱石が東大の教師をやめて朝日新聞に入社してから新聞に連載されたものです。時期的には漱石が40代の約10年間、時代は明治末期から大正初期にあたります。

 これらの小説を読むと内容は別にして、この時代の東京の中流家庭の社会風俗を書いたものとして読んでも非常に興味深いです。まだ一般家庭に電気がきていないので夜はランプです。もちろんラジオ・テレビはありません。暖房は火鉢と炬燵。交通手段は徒歩か、自動車がないので人力車か電車です。主人公はよく散歩をしています。急ぎの連絡は電報、通常は手紙、公衆電話が設置されはじめています。夜の娯楽は何かというと、寄席、浄瑠璃、芝居それに近所の寺社の縁日など主人公はよく出かけています。また戦前都市の中流家庭では普通だったようですが、女中(お手伝いさん)が住み込みでいます。奥さんはもちろん専業主婦で家事はそれなりに助けてもらっているようです。奥さんは暇な時間はだいたい裁縫をしています。家は基本すべて平屋です。漱石の小説の舞台となっているのは、現在の山の手線の内側の北半分、新宿区と文京区が中心です。地名としてよく出てくるのは本郷、小石川、牛込、市ヶ谷、神楽坂などです。ほかにもちろん神田の古本屋街や銀座も出てきますが、主人公が住んだり散歩したりしているのは上記の地域です。私は東京出身なので少し土地勘がありますが、要するに漱石が生まれた早稲田界隈と勤めていた東大のある本郷周辺の地域でそれほど広い地域ではありません。先日帰省した時に行って来ましたが、漱石が『三四郎』以降の著作をして亡くなったいわゆる「漱石山房」があった場所は早稲田大学のすぐ近くで、現在新宿区立漱石公園となっています。新宿区はいずれ記念館を整備したいようです。漱石が生まれた喜久井町も目と鼻の先にあります。

 漱石の専門は英文学でしたが、彼の問題意識は文学とは何かということと、西洋と日本の対比ということに注がれていたように思います。彼が生きた明治という時代は、日本が欧米列強の海外進出に負けまいとして維新以後、急速に近代化を進めた時代でした。そしてそのころの近代化というのは要するに西洋化と同義です。19世紀後半という時代にあって、欧米以外のアジア・アフリカ諸国の中でこの西洋化という意味の近代化を成し遂げた国は日本だけであり、その一応の成果が日露戦争の勝利でした。ただこの近代化は、西洋の制度・文物をしゃにむに取り入れておこなったものだったために普通の日本人の考え方、感じ方とは相当ズレがありました。これが漱石が「西洋の開化は内発的であって、日本の現代の開化は外発的である。外発的とは外からおっかぶさった他の力でやむをえず一種の形式を取る」『現代日本の開化』と指摘していることです。一言でいえば、日本人は近代化で本来自分たちのものでなかったことをして相当無理をしているということだと思います。そして近代人は共同体から切り離されて自由な存在になった時、必然的に孤独に悩むようになりました。漱石は孤独を「淋しさ」という言葉で表現していますが、「自由と独立と己れとに充ちた現代に生まれた我々は、その犠牲としてみんなこの淋しみを味わなくてはならないでしょう。」『こころ』と書いています。自由と孤独というのは近代人の意識の裏表です。ただ近代人は今更もとの共同体に戻るわけにはいきません。“自己本位”という個人主義でやっていくしかないというのが漱石が英国留学で悩みながら獲得した考え方だったと思います。「私は多年の間懊悩した結果漸く自分の鶴嘴をがちりと鉱脈に掘り当てたような気がしたのです。」『私の個人主義』ただ漱石は当然のことながら自己本位というのは、自分の個性を発展していくとともに他人の自由も尊重することだとしています。このような漱石の問題意識は月並みな言い方ですが、現代の我々も考えていかなければならない問題だと思います。

 漱石は1916年に49歳という若さで亡くなりました。最後に書いていた『明暗』という小説は、非常に興味深いテーマを扱っていたのですが未完となりました。もし彼があと10年生きていたらどれだけ豊かな創作の世界が広がったかと思うと早い死は残念でなりません。私は文学というのは人が生きていくための指針を与えるものだと思うのですがいかがでしょうか。

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